未破裂脳動脈瘤

・未破裂脳動脈瘤とは

脳血管にできる瘤状のふくらみのこと。大抵の場合それのみで症状を出すことはない(無症候性)が、大きくなると視野障害などの症状を出す(症候性)ことがある。破裂するとクモ膜下出血をおこす。くも膜下出血は死亡率が高く、また後遺症でつらい思いをすることが多い。未破裂の段階で脳動脈瘤を上手にコントロールすることが大事である。

 

・未破裂脳動脈瘤の頻度

脳ドックで未破裂脳動脈瘤が見つかる頻度は約5%(2−6%)である。すなわち、中年以降の年代においては比較的ありふれたものである。家族にくも膜下出血の既往があると約2倍、喫煙習慣があると約3−4倍、高血圧があると約2倍頻度が高くなる。多発生嚢胞腎などの病気でも頻度が高いことが知られている。ほとんどの脳動脈瘤はサイズが小さく破裂することはほとんどない。

 

・破裂しやすい脳動脈瘤とは

脳動脈瘤は発生部位や大きさ(サイズ)によって破裂率が異なる。日本人における部位やサイズ別の年間破裂率がNew England Journal of Medicineという米国の雑誌にのっている。それによると、脳動脈瘤はサイズが大きくなるにつれ破裂しやすくなる。また、形がいびつな(blebを有する)もの(通常の1.63倍の破裂率)や短時間で成長してくるものも破裂しやすい。部位別では、前交通動脈瘤や内頸ー後交通動脈瘤は中大脳動脈瘤と比較すると破裂率は約2倍で、小さいサイズでも破裂しやすい。

 

<脳動脈瘤の年間破裂率>

日本人における部位やサイズ別の

年間破裂率は右図

<3mm未満>の動脈瘤 

破裂することは通常ないため

データを集めていない。

 

・脳動脈瘤の生涯破裂率、死亡あるいは後遺症がでる割合

脳動脈瘤の生涯破裂率は簡便には 年間破裂率x平均余命 である。平均余命は年齢により異なり、女性はおよそ85-90歳、男性は75-80歳である。動脈瘤が破裂しクモ膜下出血がおきると、約30%が死亡し、約30%に後遺症が残るとされている。したがって、脳動脈瘤がみつかりそれを治療しない場合、

生涯に死亡あるいは後遺症がでる割合は、年間破裂率x 平均余命x 0.6 である。

例えば、50歳の女性で5mmの中大脳動脈瘤がみつかった場合、平均余命を90歳とすると、5-6mmのサイズの破裂率は0.31%であることから、生涯に死亡あるいは後遺症がでる割合は (90-50)x0.31x0.6=7.44% となる。動脈瘤がいびつな場合は、これに1.63を乗じて 7.44x1.63=12.13%となる。  

 

・未破裂脳動脈瘤の治療はどうしたらよいか

未破裂脳動脈瘤を治療する際には必ずリスクが伴います。麻痺、失語、認知症状といった後遺症に悩まなければならないこともありえます。非常に稀ですが死亡することもあります。この治療のリスクは手術を行う医師によって異なります。一般的には経験の豊富な医師の方が治療のリスクは低くなっています。脳動脈瘤を治療しない場合の生涯に死亡あるいは後遺症がでる割合と医師個人の治療のリスク(後遺症の割合)を比較して検討することが大事です。また、治療を受けた場合の後遺症は治療後すぐに出現することも念頭におくことが必要です。

一般的には 生涯に死亡あるいは後遺症がでる割合>>>治療医個人の治療リスク

 

ならば治療を考慮してもよいと思われます。個人的な考えですが、両者の間に10倍以上の差がある場合、治療を受けてもよいのではないかと考えております。ちなみに、日本の一般的な病院における無症候性未破裂脳動脈瘤の治療成績(開頭術、血管内治療含めた)は、死亡率1%未満、後遺症はおよそ3〜5%程度と推定される。

上述の50歳の女性で5mmの中大脳動脈瘤がみつかった場合でみてみると、生涯に死亡あるいは後遺症がでる割合は 7.44%であったことから、日本の一般的な病院の治療リスクを考慮に入れると、その差には2−3倍しか開きがなく脳動脈瘤の治療は積極的には奨められないということになる。

 

・クリップかコイルか

未破裂脳動脈瘤の治療には2つの方法があります。開頭を行い脳動脈瘤の根本(頸部)をクリップで止める開頭クリッピング術と血管の中でカテーテルを進め脳動脈瘤をコイルでつめてしまうコイル塞栓術があります。

クリップ治療、コイル治療、それぞれに長所・短所があります。未破裂脳動脈瘤に対して現在日本では6−7割の患者さんが開頭クリッピング術を受けています。コイル塞栓術数は年々増加しており近い将来開頭クリッピング術を超えるものと考えられます。開頭クリッピング術では脳動脈瘤の処理が確実かつ安全に行えますが、頭に傷ができるという欠点もあります。一方、コイル塞栓術は開頭術と比較すると患者さんの負担が少なく入院期間も短くてすむという長所があります。特に高齢者や合併症を有する患者さんには適した治療法です。開頭に時間がかかる椎骨脳底動脈系の脳動脈瘤の多くがコイルで治療されています。その一方で脳動脈瘤内につめたコイルが縮んで(coil compactionという)しまい再治療を要することがあります。また、ステントを使用した場合には抗血小板薬を長期間服用する必要があります。

コイル塞栓術では、脳動脈瘤と親血管の関係、動脈瘤頸部の広さ、動脈瘤と分枝との関係などで治療が困難な場合があります。コイル塞栓術に向いてない脳動脈瘤は以下のような場合です。

□ 親血管が拡張し、その一部から脳動脈瘤が発生している。

   親血管の形成が必要である。ただし、ステント使用でコイル塞栓術が可能な場合もある。

□ 脳動脈瘤の頚部が広い。

   この場合完全に閉塞は難しい。ステントを使用したり、様々なテクニックを用いると可能な場合もある。

□    頚部近くから分枝が出ている場合完全に閉塞できない。

   分枝の保存が大事であり、コイル塞栓術は制限を受ける。

クリップ向きの脳動脈瘤は?

  現在脳動脈瘤の多くがコイル塞栓術で治療可能である。しかしながら、一般に中大脳動脈瘤は形が複雑でコイル塞栓術に向いてない動脈瘤が多いことから開頭クリッピング術向きである場合が多い。若年者の内頸動脈瘤では、コイル塞栓術を行った場合の再治療の可能性や高血小板薬服用の必要性を考えると開頭クリッピング術を選択することも多い。

 

 

・治療の最終判断

未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、以下の選択肢があります。

1 定期的に画像検査を行い、サイズが大きくなったり、形がいびつになった場合、あるいは成長速度が速い場合に治療を考慮する。

2 適当な時期に開頭クリッピング術を受ける。

3 適当な時期にコイル塞栓術を受ける。

いずれを選択した場合でも、ご家族を含め治療にあたる医師とゆっくり話し合い、納得してから判断することが大事です。

 

・脳血管の検査を受けたことのない人へのアドバイス

クモ膜下出血は予防ができる病気です。家族にクモ膜下出血になった人がいる、喫煙を続けている、血圧が高いなどの場合は、40歳をこえたら脳血管を調べたほうがよい。今はMRIで容易に未破裂脳動脈瘤を見つけることができる。脳動脈瘤が見つかっても、治療の対象となるものは少なく、ほとんどが経過観察ですみます。また、治療した場合も後遺症の発生率は低い。脳動脈瘤が見つかっても必要以上に心配する必要はない。